大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都家庭裁判所 昭和63年(家)919号 審判 1988年6月28日

申立人 ジョン・エドワード・ロイス 外1名

事件本人 森川純一 外3名

主文

事件本人森川純一を申立人ジョン・エドワード・ロイスと同秋川市子の特別養子とする。

理由

1  当庁家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書その他一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人らとその養親適格性

申立人ジョンは英国国籍を有する男性であり、英国で大学を卒業後フランスへの留学ドイツでの大学勤務を経て昭和56年8月来日し、現在○○市で大学助教授として勤務しているもの、申立人市子は日本人女性であって申立人ジョンとは昭和48年フランス留学中知り合い、昭和51年6月16日英国で結婚したものである。夫婦は共に健康で、円満な生活を送っており、ローンで購入したマンションに居住しその地位に相応した収入を得ているほか相当の資産を有する。子に恵まれないため養子を希望したが、子供好きで子供の居る家庭を望んでおり、養親としての適格性は十分なものがある。

(2)  未成年者とその要保護性

未成年者の母妙子は日本人で、米国国籍(ミズーリ州)を有する父ポール・レノンと昭和60年1月30日結婚して二子をもうけているが、同人が米国に帰国中未成年者を懐胎したため、帰宅した同人とは高い緊張状態が続き、同人は出生した未成年者の養育を拒否した。その結果両名の家庭を維持するためには未成年者を手放すほかなかった。未成年者は○○児童相談所を通じて社会福祉法人日本国際社会事業団に紹介され、昭和62年7月10日同事業団から申立人夫婦にひきとられた。

(3)  本件申立までの経緯

申立人らは子に恵まれなかったため養子を希望していたが、たまたま前記事業団を知り昭和61年3月養子縁組の希望を申し出た。同事業団は6ヶ月に亘る調査の結果申立人らを養親候補者として登録し、昭和62年7月8日申立人らに連絡し同月10日未成年者と申立人らは初めて面会した。同日申立人らは同事業団事務所から未成年者を引き取り現在まで養育を続けている。同事業団は申立人らのもとでの未成年者の養育状況を7ヶ月間に亘り観察し、その結果養子縁組相当との結論を出し、申立人らは本件申立をしたものである。

(4)  未成年者の父母の特別養子縁組についての承諾

未成年者の母妙子は前記事情によりポールが未成年者の養育を拒否したため、未成年者の幸福を願って養子としたもので、申立人夫婦の実子として育てられることに異存はなく、妙子、ポールとも特別養子の意味を十分了解して本件養子縁組を承諾し承諾書を提出している。

(5)  申立人夫婦の未成年者に対する監護養育状況と適合性等

前記日本国際社会事業団は未成年者を申立人らに委託後数度にわたって文書で報告を受け、又申立人方へワーカーを訪問させ、未成年者の健全な発育と申立人らとの深い情緖的つながりを確認した。当裁判所の調査によっても申立人らは未成年者を申立人らの実子として養育することに強い熱意を持ち、愛情豊かに未成年者を養育しており、ことに申立人市子は子育ての経験もあり養育態度は安定している。未成年者の発育は順調で申立人らの庇護のもとに安定した成長を続けている。

2  本件は渉外事件であるから、なお手続要件について検討する。

(1)  裁判管轄

養親となるべき申立人ら及び未成年者とも○○市に住所を有するものであるから、本件養子縁組については我が国に裁判管轄権があり、当裁判所の管轄に属するものということができる。

(2)  準拠法とその適用

法例19条1項によれば、養子縁組の要件は各当事者の本国法に従うこととなるから、申立人ジョンについては英国法が、同市子及び未成年者については我が国の民法が適用されるところ、英国養子縁組法によれば養子縁組の効果として実親及び実方との関係は断絶するものと定められているので、特別養子、完全養子縁組の許容性を縁組成立の双方要件とする立場にあっても、本件特別養子縁組を成立させることが可能である。そして、申立人らについては養親側の要件としての年令限定、夫婦共同縁組の必要につき我が国の民法並びに英国養子縁組法の各要件を充足しており、未成年者については子の側の要件としての年令限定に問題はなく、前記のとおり父母の同意があり(この点はミズーリ州法に照らしても妨げとなるべき事情はない)、また要保護性については上記事情においては要保護性があるといわなければならない。さらに試験養育については、上記認定事実に徴すれば、我が国の民法上の要件は勿論のこと、英国養子縁組法の要件をも満たしているものとみとめられる。(なお、本件養子縁組の斡旋を行った社会福祉法人日本国際社会事業団は、養子縁組の斡旋事業を行うにつき厚生大臣の認可を受けた団体であり、養子縁組の斡旋に関しては英国養子縁組法にいう養子縁組機関に準じて考えることができる。)他に本件養子縁組成立の障害となる事由はない。

3  以上のとおり、本件は成立手続について申立人らが未成年者を養子とすることに妨げとなるべき事情はなく、上記認定事実に照らせば、未成年者のためには本件特別養子縁組を成立させることがその健全な育成と福祉の増進のために特に必要と認めることができる。

よって本件申立を認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 工藤雅史)

〔参考〕

英国養子法(Adoption Act 1976)

第2部 養子決定

Adoption Orders

養子決定の作成 The making of adoption orders

第12条 養子決定 Adoption orders

(1) 養子決定とは、養親の申請によって、児童に関する親としての権利、義務 parental rights and duties を養親に与える決定であって、権限ある裁判所によってなされるものをいう。

(2) 養子決定は、決定がなされる前の期間に関する限り、親としての権利、義務に影響を及ぼすものではない。

(3) 養子決定をすることにより

(a) 児童に関する親としての権利、義務で

(i) 決定直前児童の親又は後見人 guardian であった者(養親の一人でない)に与えられており、又は

(ii) 裁判所の決定によって他の者に与えられているもの、及び

(b) 協議 agreement 又は裁判所の決定によって生ずる金錢支払 payments 義務で、決定後の期間の児童の扶養maintenance に関するもの、その他親としての義務に含まれ且つ決定後の期間に関するもの

は総て消滅する。

(4) 第3項(b)号の規定は、協議により生ずる義務で

(a) 信託を設定するもの constitutes a trust

(b) 養子決定により消滅しない義務として明白に規定されているものには適用されない。

(5) 養子決定は、現に婚姻し又はすでに婚姻したことのある児童については、これを拒否することができる。

(6) 養子決定には、裁判所が適当とする thinks fit 条件 terms and conditions を付することができる。

(7) 養子決定は、児童が既に養子決定を受けていても、これをすることができる。

第13条 決定前における児童と養親との同居 Child to live with adopters before order made

(1) (a) 申請者又はその一人が、児童の親、継親 step-parent もしくは親族 relative であり、又は

(b) 児童が養子斡旋機関によりもしくは高等法院の決定に従って申請者の下に措置 place されていた場合は

養子決定は、児童が少くとも(生後-訳者注)19週間経っており、且つ(決定の-訳者注)前1、2週間引き続いて at all times 申請者又はその一人と同居していたときでなければ、これをしてはならない。

(2) 第1項の適用がない場合には、養子決定は、児童が少くとも(生後-訳者注)12ヶ月経っており、且つ(決定の-訳者注)前12ヶ月間引き続いて申請者又はその一人と同居していたときでなければ、これをしてはならない。

(3) 養子決定は、児童を申請者の下で視察し、又は婚姻した夫婦による申請の場合は、その夫婦を共に、家庭的環境 home environment で視察する to see 充分な機会が

(a) 児童が、養子斡旋機関により申請者の下に措置されているときは、この養子斡旋機関に、又は

(b) その他のときは、家庭のある地方を管轄する地方当局に

与えられていたことを裁判所が確認するのでなければ、これをしてはならない。

第14条 夫婦による養子収養 Adoption by married couple

(1) 1975年児童法第37条第1項(特定の場合には、養子決定に代え監護権決定 custodianship order をすることができると規定する)の制限の下に、それぞれ21歳に達している夫婦 married couple による申請に基づいて、養子決定をすることができるが、その他の場合には、二人以上の者の申請に基づいては、養子決定をしてはならない。

(2) 申請が夫婦によってなされた場合は

(a) 少くとも夫婦の一方が、連合王国 United Kingdom チャネル諸島 Channel Islands 又はマン島 Isle of Man に住所を有している domiciled か、又は

(b) 申請が、協定養子決定 Convention adoption order を求めるものであり且つ第17条の条件が満たされているとき

でなければ、養子決定をしてはならない。

(3) 児童の親と継親とが夫婦である場合において、裁判所が、その事件を、むしろ1973年婚姻訴訟事件法 Matrimonial Causes Act 1973第42条(監護命令orders for custody 等)により取り扱う方がより妥当であると考えるときは、裁判所は、その申請を却下 dismiss しなければならない。

第16条 親の承諾 Parental agreement

(1) 養子決定は

(a) 本法第18条に基づきイングランド及びウェールズでなされ又は1975年児童法第14条(スコットランドに於ける養子自由化を規定する)に基きスコットランドでなされた決定により、児童が養子収養に対し自由化されている(障害のない者free for adoption となっている)こと、又は

(b) 児童の親又は後見人がある場合には、裁判所が

(i) その者が、自由に、且つ、養子決定の含む意味を充分に理解して、養子決定をすることを無条件に承諾agreeしていること(申請者が何人であるか identity を知っていると否とにかかわらず)、又は

(ii) 養子決定をすることに対するその者の承諾 agreement が、第2項に掲げられた理由によって免除されうべきこと

を確認する。

ときでなければ、これをしてはならない。

(2) 第1項(b)号(ii)のいう理由とは、親又は後見人が

(a) 生死不明であるか又は承諾を与えることができないこと

(b) 承諾を不当 unreasonably に拒否している withholding こと

(c) 正当な理由 reasonable cause なくして、児童に関する親としての義務を永続的にpersistently 果していないこと

(d) 児童を遺棄し abandon 又は無視している neglect こと

(e) 永続的に児童を虐待している ill-treat こと

(f) 甚しく seriously 児童を虐待していること(第5項の制限の下で)

をいう。

(3) 第1項の規定は、児童が、連合王国の市民 national でない場合及び養子決定の申請が協定養子決定に対するものである場合には、適用されない。

(4) 児童の出生後6週間以内になされた母の承諾は、第1項(b)号(i)の承諾としての効力を有しない。

(5) 第2項(f)号の規定は(虐待その他の理由で)、親又は後見人の家庭 household では子が改善 rehabilitation されそうにない場合でなければ、適用されない。

第24条 養子決定作成に対する制限 Restrictions on making adoption orders

(1) 児童に関してなされたイギリス養子決定 British adoption order の申請が、既に、何等かの裁判所で却下されているときは、裁判所は、その児童に関する同一人からの養子収養の申請を審理する手続を進めてはならない not proceed。 但し

(a) 以前の申請の却下に当り、裁判所が、本項は適用されない旨指示した directed とき、又は

(b) 事情の変更その他の理由によって、申請手続を進めるのが適当であると、裁判所が、認めるとき

はこの限りでない。

(2) 裁判所は、申請者が、児童に関し、第57条に違反して他人に金銭の支払をせず、又は報酬の支払をしていなかったと確認しなければ、児童に関し、養子決定をしてはならない。

(岡山大学法学雑誌27巻2 213~220頁から引用)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例